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胚培養士のキャリアインタビュー#02 「改善の先に、最適なラボがある」― 20年の経験を次の挑戦へ

胚培養士のキャリアインタビュー#02 「改善の先に、最適なラボがある」― 20年の経験を次の挑戦へ

vivola編集部

 Profile    
 北坂浩也さん
 ゆうARTクリニック・胚培養士

 品質管理責任者および培養室 室長

 キャリアの経緯        
  • 北里大学獣医畜産学部(現・獣医学部)卒業
  • 2004年 浅田レディースクリニック入職、胚培養士としてキャリアをスタート
  • 臨床業務と並行して広島大学大学院へ進学、博士号を取得
  • Lab長・管理職として、スタッフ教育・ラボ運営・品質管理に従事
  • ISO9001を学び、品質マネジメント・継続的改善を実践
  • 2025年 新たな環境へ転職。培養室の品質管理・教育・組織づくりに取り組む
1.「胚培養士」という仕事との出会い

― 学生時代に「胚培養士」という仕事をどのように知り、なぜ生殖医療の分野を選ばれたのでしょうか?

大学への進学を考えていた頃は、漠然と医療系・農獣医系のどこかに進もうと思っていたものの、明確な目標があったわけではありませんでした。

そんな中でご縁があったのが、北里大学獣医畜産学部(現・獣医学部)です。

入学後、就職先を紹介するオリエンテーションで病院への就職者がいることを知り、調べていくうちに、婦人科領域に「胚培養士」という仕事があることを知りました。

それまで知らなかった仕事でしたが、生殖医療という分野で、卵子や胚を扱いながら患者さんの治療に関わることに魅力を感じ、将来の進路として胚培養士を目指すようになりました。


― 当時はまだ胚培養士という仕事が一般的ではなかったと思います。就職先はどのように探されたのでしょうか?

当時は胚培養士という仕事自体がまだ一般的ではなく、求人を出している施設もほとんどありませんでした。

今のようにインターネットで簡単に情報を探せる時代でもなかったので、手当たり次第に電話や手紙を出して、求人がないかを聞いて回りました。

返答をいただいた施設には実際に見学に伺い、培養室の仕事や、仕事のやりがい、大変なことなどを教えていただきました。ただ、いざ就職となると何施設にも断られ、面接をしていただいても不採用になるという状況でした。

そうした中で、最終的に浅田レディースクリニックにご縁をいただき、胚培養士としてのキャリアをスタートすることができました。


― 入職したばかりの頃、苦労されたことや印象に残っていることはありますか?

入職した当時は、周囲が臨床検査技師の方ばかりだったこともあり、農学系出身の自分には医療的な知識が不足していることを強く感じました。

医療業界では一般的な用語や病名、病状についても知らないことが多く、飛び交う言葉についていくことにも苦労しました。そのため、参考書や教科書を読み漁り、とにかく必死に勉強しました。

また、当時は患者さんと直接接することなど想定していませんでしたが、AIHの処理について初めて患者さんに説明し、実際に処理を担当する機会がありました。その症例で妊娠につながったときは、とても嬉しかったことを覚えています。

振り返ると、知識も経験もないところから、分からないことを一つずつ学び、少しずつ仕事を身につけていった時期だったと思います。


2.現場から研究の世界へ ― なぜ「もっと学びたい」と思ったのか

― 胚培養士として経験を積む中で、大学院への進学を考えたきっかけは何だったのでしょうか?

きっかけは、純粋に「もっと学びたい」と思ったことです。

生殖医療に携わる中でさまざまな研究に関わり、文献を読む機会が増えるにつれて、自分にはまだ知らないことがたくさんあると感じるようになりました。学生時代に学んだ知識だけでは分からないことも多く、より深く、より詳細な手法を学びたいと考えて大学院への進学を決めました。

最初から「博士号を取得すること」を目標にしていたというより、もっと深く学びたいという思いから進学し、その結果として博士号の取得につながったという方が、自分の感覚としては近いと思います。


― 博士課程では、どのような研究に取り組まれたのでしょうか?

研究では「卵子成熟」に焦点を当てました。卵子の成熟過程において卵胞内で局在性が大きく変化するフィブロネクチンに着目し、顆粒層細胞の黄体化、卵丘細胞層の膨潤、卵子成熟に果たす役割を解析しました。

さらに、そこから卵子の新たな体外培養法を開発し、家畜の生殖工学技術やヒトの高度生殖補助医療に貢献することを目指しました。

このテーマは、働き始めてから疑問や興味を持っていたテーマでもあります。臨床現場で感じた疑問を、研究という形でさらに深く掘り下げていったという流れでした。


― 大学院での研究と、クリニックでの仕事はどのように両立されていたのでしょうか?

進学先は、生殖生物学に精通した広島大学の島田先生のもとでしたので、職場のある愛知県から広島大学まで、毎月1回、1週間程度通っていました。

大学にいる間は、朝から晩まで実験など大学でしかできない作業を集中的に行えるようスケジュールを組みました。院生や学生の皆さんにも実験準備などをしていただき、とても感謝しています。

大学に行っていない期間はクリニックで培養業務を行い、夜間や休日には文献レビュー、統計解析、論文執筆を進めるという形で両立していました。

研究を通して特に大きかったのは、「問いを立て、データで検証し、現場に還元する」という考え方を身につけたことです。

エビデンスに基づいてプロトコルを設計する力、不確実性の中で意思決定する力、複雑な内容を整理して伝える力。こうした力は、現在の培養条件の最適化やトラブル対応、チーム連携にも直結しています。


3.マネジメントから品質管理へ ― 「良いラボ」を仕組みでつくる

― Lab長や管理職としてラボ全体を見るようになり、仕事に対する考え方は変わりましたか?

博士号取得後は、臨床の現場で培養業務を行うだけでなく、Lab長や管理職として、スタッフの教育、チーム全体の運営、ラボの品質管理などにも強く携わるようになりました。

そこで大きく変わったのは、個人の成果よりも、チームとしての成果を重視するようになったことです。

一人の培養士が高い技術を持っていることはもちろん重要です。

しかし、その人だけに頼るのではなく、チーム全体で安定して質の高い仕事ができることが重要です。

そのためには、必要な情報を共有し、品質管理の仕組みを整えることが必要です。「人が頑張ってミスを防ぐ」のではなく、「仕組みでミスを防ぐ」という意識が強くなりました。


― なぜISO9001を学び、審査員資格の取得を目指されたのでしょうか?

仕組みでミスを防ぎ、継続的に品質を高めていくためには、ISO9001の考え方が非常に重要だと感じたことがきっかけです。

現状維持は、一見すると何も変わっていないように見えます。しかし、時代や技術が変化する中では、結果として取り残され、退化してしまう可能性があります。だからこそ、常に見直し、改善していく「継続的改善」の考え方が必要だと考えました。

また、自分の施設だけを見ていると、どうしても知識や考え方が狭くなってしまいます。審査員としてさまざまな組織や現場を見ることで、多くの経験や考え方を学び、それを自分の現場へ還元したいと考えました。


― 現在の培養室では、ISO9001の考え方をどのように活かしていますか?

個人の経験や技術だけに頼るのではなく、業務を仕組みとして捉え、ルール、記録、情報共有、教育、改善を一つのサイクルとして考えるようになりました。

決められた手順が実際にルール通り実施されているかを確認し、問題が起きた際には原因を考え、再発を防ぐための仕組みに反映することを大切にしています。

目指すのは、「人の技術に依存するラボ」から「人が育ち、仕組みとして品質が維持・改善されるラボ」です。

個々の胚培養士が高い技術を持つことに加えて、誰が担当しても一定の品質を維持でき、人が成長することでさらに品質が高まっていく。そうしたラボをつくっていきたいと考えています。


4.次の挑戦を求めて ― 新しい環境を選んだ理由

― 長年経験を積んだ環境から、2025年に転職を決めたきっかけは何だったのでしょうか?

これまで大きな組織でさまざまな経験を積むことができました。一方で、組織が大きくなるほど、自分が胚培養士として本当にやりたいことを実現することが難しい場面もあると感じるようになりました。

これまで培ってきた経験を活かしながら、自分が考えるより良い培養室や教育環境を、自分の手でつくっていきたい。

そう考えるようになり、新しい環境を求めて転職することを決めました。


― 転職先を選ぶ際、特に大切にしたことはありますか?

医療は一人で完結するものではないので、医師とのコミュニケーションを非常に大切にしています。そのため、培養室の意見や考えについても、率直に意見交換ができる医師であるかどうかは重要なポイントでした。

また、生殖医療は常に進歩していく分野です。最新の情報に触れ、知識や技術をアップデートしていくためには、学会への参加や発表も重要だと考えています。

そのため、学会参加や発表に対するクリニックの考え方や、そうした活動を支援する環境についても確認しました。

転職先を考えるうえで大切にしたこと

・医師と率直に意見交換できること
・培養室の考えを尊重してもらえること
・学会参加や発表など、学びを続けられる環境があること
・これまでの経験を活かしながら、新しいラボづくりに挑戦できること
5.人を育て、長く働ける環境をつくる

― 胚培養士の教育で、特に大切にしていることは何でしょうか?

一番大切にしているのは、目的意識を持って業務を行うことです。

胚培養士にはさまざまな手技や技術がありますが、ただその作業ができればよいわけではありません。

「なぜこの作業をするのか」
「この手技にはどのような意味があるのか」
「この操作が患者さんの治療にどうつながっているのか」

そこまで理解した上で仕事をすることが重要だと考えています。

目的を理解せずに手順だけを覚えてしまうと、想定外のことが起きたときに対応できません。逆に、目的や原理を理解していれば、イレギュラーな状況でも自分で考えて対応できるようになります。

そのため、単に「できるようになる」ことではなく、「なぜそうするのかを理解し、自分で考えて行動できるようになること」を教育では大切にしています。


― 現在の規模だからこそできる教育やラボづくりについて、どのように考えていますか?

ISO9001の教育の考え方でも重要なのは、必要な力量を明確にし、それに応じた教育を行い、その結果を確認して、さらに必要な教育につなげていくことです。

現在の規模だからこそ、一人ひとりの力量や成長の状況を把握しやすく、それぞれに必要な教育を考えながら育成できるというメリットがあります。

また、教育を「教える側から一方的に与えるもの」にせず、本人が自分の課題や目標を理解し、主体的に学べる環境をつくることも大切です。


― 胚培養士として長く働くために、大切なことは何でしょうか?

日々の業務をただ繰り返すのではなく、「なぜこうするのか」「もっと良くする方法はないか」という疑問を持ち続けることだと思います。

学びを止めず、変化を前向きに受け入れ、自分自身も組織も少しずつ改善していく。

そうした姿勢が、長くこの仕事を続けることにもつながると思います。


6.これから目指すラボ、そしてキャリア

― 今後、どのようなラボをつくっていきたいと考えていますか?

これから特に大切にしたいのは、品質管理とリスク管理の徹底です。

ヒヤリハットの共有、ダブルチェックの仕組み、トレーサビリティの確保など、人が頑張ることでミスを防ぐのではなく、「人が頑張らなくてもミスが起きにくい」環境を整備することを目指しています。

同時に、教育と心理的安全性の両立も重要だと考えています。

若手が分からないことを質問しやすい雰囲気や、失敗や問題を隠さず報告できる文化をつくり、その上で適切なフィードバックや研修を受けられるラボにしたいと思っています。

高い技術を持った人を育てるだけではなく、人が安心して学び、問題を共有し、チームとして改善できる環境をつくることが、これからのリーダーとしての役割だと考えています。


― 最後に、これから胚培養士を目指す方や、若手の胚培養士へ伝えたいことを教えてください。

まず伝えたいのは、「基礎を丁寧に、しかし疑問を持ち続けること」です。

ピペッティングの技術、培養液の扱い、顕微鏡の調整など、基礎的なスキルは絶対に外せません。一方で、「なぜこの手順なのか」「この条件で本当に最適なのか」と問い続ける姿勢も大切です。

その疑問が、将来的にはプロトコルの改善や新しい研究につながっていきます。

もう一つ大切なのは、「チームの一員として動くこと」です。

胚培養士は一人で完結する仕事ではなく、医師、看護師、コメディカルなど、多くの職種との連携が不可欠です。

「自分の仕事はここまで」と考えるのではなく、「患者さんの治療成果のために、自分にできることは何か」という視点を持つことで、仕事の見え方も変わり、自然と視野が広がっていくと思います。


分からないことがあれば素直に聞き、疑問があれば調べ、失敗したらそこから学ぶ。

その積み重ねが、長い胚培養士人生の中で大きな力になると思います。


編集部より

今回のお話で印象的だったのは、20年以上にわたるキャリアが、最初から描かれた一本道ではなかったことです。

ただ、その根底に一貫していたのは、「今よりもっと良くするにはどうすればよいか」と問い続ける姿勢でした。

本インタビューからの学び
💡 「問いを立て、データで検証し、現場に還元する」
💡 「人が頑張ってミスを防ぐのではなく、仕組みでミスを防ぐ」
💡 「基礎を丁寧に、しかし疑問を持ち続ける」

若手の時期には、まず技術を身につけることが大きな目標になります。しかし、その先には研究、教育、マネジメント、品質管理、そしてラボづくりなど、胚培養士として培った経験を活かせるさまざまなキャリアがあります。

今いる環境で何を学ぶのか、そして次に何へ挑戦するのか。これからのキャリアを考える胚培養士の皆さんにとって、自分なりの道を考えるきっかけになるインタビューではないでしょうか。



あなたらしいキャリアについて、考えてみませんか?

「転職する」と決めていなくても大丈夫です。
今の職場を続けるべきか、新しい環境に挑戦してみるべきか。
キャリアに正解はありません。

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